幕間五(常葉誠視点)
「ぼちぼちお前らも退院か」
相変わらず僕たちのリハビリに付き合ってくれながら、守が感慨深げだ。
(生きて退院できる日が来るなんて)
あ、望もそう思ってる? 多分、僕も。
(多分じゃない)
……あっ、はい。
「お前らまた何か通信しただろ」
「生きて退院できる日が来るなんて……って」
「……それもそうか。退院したらどうするつもりだ?」
退院した後、か。
「僕は本格的に仕事に復帰。しばらくは当直免除だけど、外来とか」
「俺は誠の家で在宅勤務できる仕事を探す予定」
あっ、望ったら、そこまで言う? 守が聞き逃すわけないのに。
「……同棲する気か」
ほら、ちゃんと気付かれた。
でもこれは、僕のせいで。だから、僕が言わなくちゃ。
口を開きかけていた望が、そのまま黙った。僕の気持ちを尊重してくれた、嬉しい。
望の態度から僕が説明するつもりだと察したらしい守も、僕が話すのを待つ体勢だ。
うう、でも、恥ずかしい、な。
「……望がいないと、寂しい」
静かなのは、嫌いではなかった。なかったのに、何となく好きでもなかった。その気持ちの正体が、今なら分かる。あまりに静かなのは寂しくて、苦手なんだって。
守、特に茶化すでもなく、「そうか」って。なのに望が、真相まで暴露する。
「誠、夜になったら寂しい寂しいってメソメソするから、ぎゅってしながら寝たい」
まさかの、三十路が夜に寂しくなって、泣く。うぅ。
案の定、守が、呆れた。
「……お前ら……。いや、良いけど。誠お前、そんなことになってるのかよ」
いや、呆れただけじゃない、な。これは心配された、と、思う。
(そうかも)
だよね。でも、嫌じゃない、んだけどな。
寂しいのも、心配されるのも——
(伝えなよ)
「あのね、守」
「なんだ、改まって」
「守のおかげで、僕、今、幸せ。ありがとう」
言葉は、意外とスルリと喉から出た。そうしたら、守が、大きく瞬きした。
「お前……夜にメソメソするくせに、幸せって」
「でも、望が慰めてくれるし」
「散々心配かけやがって」
「うん」
「オレがどんなに『死ぬな』って言っても返事もくれなかったくせに」
「……うん」
「……末長く幸せに泣いてろ」
「そうする」
早速また、泣きそうだよ。
【徳永守の日記】
……まさか、誠があんなこと言う日が来るなんて。オレまで泣きそうになったじゃないか、不覚。
オレのおかげで幸せとか、不意打ちにも程があるだろ。絶対あれ、望が裏で背中を押した……割には望も少し驚いた顔だったから、中身を知らずに促したパターンか。どっちにしろ、今度会った時には礼を言っておかないとな。
結局、外殻を想定外に使いこなしたのはあの二人だけだったが、経過観察の必要性から、定期的に大学病院に通う日々は続きそうだ。
まあ、決着がついて、良かった。これで、オレも心置きなく、嫁と子どものことに集中できるってものだ。