『あなたが連れて行くのなら、全力で作りますよ』
縦横変換 表通りに立ち並ぶオシャレな店の中でも、特に目を惹くパステルカラー。その店の窓には、可愛いぬいぐるみたちが並んでいる。
白い扉を押し開けると、カロンコロンと鐘が鳴った。その音さえも、可愛らしい。
「いらっしゃいませー! ……そろそろかなって、思ってましたよ」
両肩に一匹ずつ、白と黒の仔猫のパペットを乗せた店主が笑顔で出迎えてくれた。双子猫のパペットたちが、ミャーと声を揃えて挨拶してくれるのが、癒し以外のなにものでもない。白の仔猫には天使の羽が、黒の仔猫には悪魔の羽が、それぞれ生えていて、それが更に愛くるしい。
「えへー、こんにちは。今日もみんな、可愛くて眼福……」
にまにまと頬が緩むのが、隠せない。にゃんこたちには最初、シャーって威嚇までされたものだけれど、流石に何度も通っていたからか、今では呆れたように見られるだけになった。
「今日は何をお求めですか?」
訊ねてきつつも、店主の手は既にカウンターの下に伸びている。取り出された箱に入っている色とりどりの刺繍糸は、普通の一般客なら決して目にすることのできない、パペットたちの材料の一つだった。
減ってきていた色を補充するべく手に取ると、黒の仔猫が店主の肩から飛び移ってきて、ニャアと鳴いた。モリオンを核に持つこの子は、私よりもよっぽど強い破魔の力を持つ。きっと、念を入れて、糸を祝福してくれたのだろう。その様子を見ていた白の子も、店主の肩でナーゴと鳴いた。水晶の加護も得て、刺繍糸が更にキラキラと輝く。
「こんだけ、お願いします。お代は、いつもの感じで良いですか」
私が取り出したのは、いつも支払っているアメシスト。そして、不意に存在を思い出して、占い師に託されたモルダバイトを一欠片。
店主の表情が、凍った。
「……良いんですか、そんな貴重なもの」
「なんか、いっぱい渡されちゃって。こっちに寄りなされって助言もされたし、よく見たらそっちの子、実を結びそうなんで」
店主の肩から動かない、白の仔猫。その核を見れば、見事に花開いていた水晶が、実を宿している。
「初産が一番しんどいんでね。特に水晶は、繊細やか、ら」
私の言葉がそこで途切れたのは、黒の仔猫が私の手を本気で噛んだからだ。確かに、勝手に核を覗き見るのはデリカシーに欠ける行為である。
「すまんなぁ、勝手に」
黒の仔猫に謝っていたら、多分再起動したらしい店主が、そっと私の手を取った。
「手当しましょう。いくらパペットとはいえ、猫の咬み傷は危険です」
「えっ、大丈夫やけど……」
しかも、私が悪いので、自業自得な傷である。多分モルダバイトを握っていれば、治るやつ。
けれどあんまりにも店主がチラチラと傷を見てくるので、結局私は折れて、手当を受けることになった。パペットを作成する店主だけあって、全く迷いも危なげもない丁寧な処置に感心する。
「お供を頼むんなら、ここの子がええなぁ」
私がパペットを連れることはない。ないのだけれど、思わず呟くと、店主はやっと表情を緩めてくれた。
「その時は、是非とも。あなたが連れて行くのなら、全力で作りますよ」