『アンタは、一体……』
縦横変換 すれ違ったのは偶然で、相手に気付いたのは、本当にたまたまだった。パペットの核を覗き見るのは本来あまり褒められた行為ではなく、だから私も普段は意識して、気にしないようにしている。とは言うものの、興味と好奇心に負けてついうっかりと見てしまうのが私で、それでトラブルになったことも、割と何回かあるのだけれど。
話が逸れた。
そのパペットとすれ違ったのは偶然で、パペットだと気付いたのも本当にたまたまだった。明るい金髪の彼はとても整った顔立ちで、左右で色の異なる瞳が更に強烈に記憶に残る、そんな派手な青年だった。世の中にはこんな美青年がいるのか、と感心して二度見したら、気付いてしまったのだ。その目立つ両目が、彼の核であることに。
「ほわぁ、これぞ太陽神……」
思わず言葉を漏らしてしまったが、仕方がないと思う。何せ、片目がペリドットで、もう片方はサンストーンだ。どちらも太陽の石である。
一方で、その存在の歪さにも気付いてしまった。パペットの側には、普通、主人の人間がいる。それがいない。普通、パペットの核には、主人や作り手の願いに応じた魔法が宿っている。それもない。
はて? と首を傾げたのと、美人なお兄さんがものすごい勢いで振り返ったのが、ほぼ同時だったと思う。もしやこれは良くないパターンでは? と考えた時には既に遅く。慌てて前を向いた私の後ろ襟がガッツリ掴まれ、グエッと間抜けな声が出た。
「……違う」
残念そうに言うのなら、早く離して欲しい。けれども彼は、ますます強く私の首を締め上げて、苛立たしげに続けた。
「おい、アンタ知らないか。双子だ。双子を、探してるんだ」
そもそも知らないし、もし仮に知っていたとしても、こんなに強く首を絞められていては普通の人間では物理的に答えられない。そう、人間の生態を知らないと、こういうことをやらかしがちである。いやぁ、若いなぁ……。
ただ、早くこの状況を何とかしないと、傍目に見た絵面がよろしくない。もがいて見せるのだけれど、はぐれパペットの青年には意図が伝わらないようだ。
うーん、どうしたものか。もし普通の人間のように振る舞うことを徹底するのなら、そろそろ死んだふりくらいしないといけないんだけど、絶対に大騒ぎになるし、このパペットも処分されてしまう。でも、そもそもの原因は、この子を作って放棄した、人間たちにあるとしか思えない。哀れな彼は、ただ主人を求めているだけで。きっと私を襲ったのも、情報が得られると思ったからだ。
それにしても、どうして私を狙ったのだろう。
んー、ともう一回悩んで、私は自分の首を絞めるパペットの腕を掴んだ。そして、全力で覗き込む。彼が彼になる前の、彼の目に残る記憶を。
手を繋いでいる少年と少女。太陽だ、と呟いた少年はサンストーンを手に取って、それを見た少女はペリドットに手を伸ばした。二人の背後、執事服を着た青年の目が、ドロリと濁っている。彼の顔立ちはパペットの青年に似通っていて、モデルになった可能性を示唆していた。
「ふむ。太陽みたいに輝きたかったんか、太陽みたいな人に守られたかったんか」
パペットの青年が、愕然と目を見開いた。
「見えたか? それが手がかりや。わかったんなら、もう離して欲しいんやけど」
正直、とても疲れた。モルダバイトを取り出して、握る。ここまで関わっておいて、狂うかもしれない彼を見捨てるのも後味が悪い。一欠片は、お守りとしてあげた。
「アンタは、一体……」
その青年のもっともな疑問には、答えてあげなかったけど。