『何を後悔するって言うのさ?』

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 元は宗教国家だったというその街を散策していたら、派手派手しい色彩の行列が、大通りをり歩いていた。目にあざやかな黄金色、赤色、青色で、目がチカチカする。
 これがうわさの、ご本尊様のお渡り行列か。
 やがて、白尽くめの大人たちにかつがれて、四隅よすみに黄金の動物の像を配置した御輿みこしあらわれる。中央に座っているのは、仮面をつけた二人の子ども。ゆったりとした服装で、体型はよく分からない。
 私の周りの人々が頭を下げ始めたので、私もならって顔をせた。通りすがりの私が目をつけられることはないだろう、そう思っていたのに。
 気が付けば神殿内、しかも、どう考えても内部関係者しか入れなさそうな部屋で、途方に暮れている。
 目の前では、仮面をつけた二人の子どもが、無言のまま座っている。むしろ二人を囲む四体のパペットたちの方が、興味津々きょうみしんしんと言わんばかりに私を観察しているのが、落ち着かない。
「アメシストを持っているね?」
「モルダバイトをもらっているね?」
 不意に二人に問われて、戸惑とまどったままうなずいた。
「見てみたかったのさ、宝石を」
「見てみたかったのさ、宇宙の石を」
「ボクたちは、ただの石だから」
「ボクたちは、作り出されたものだから」
 交互に言葉をつむぐ子どもたちの声はそっくりで、鈴を鳴らすよう。けれど、二人は人間であって、石を内包するパペットではないハズで……
 ずい、と黄金色のパペットたちが距離を詰めてきた。羊のパペット、牛のパペット、ロバのパペット、山羊のパペットだ。見るつもりはなかったのに、あまりに近付かれ、彼等の核が見えた。それらは確かに人工物で、宝石でもなくて、私は思わず目を丸くした。
 羊のパペット、牛のパペットには玉鋼たまはがねが使われていた。しかも、それぞれ微妙に、色合いが違う。魔法の気配までする。特殊な金属であることは疑いようがなかった。
 ロバのパペットには石板が使われている。しかも、何やら文字まで刻みつけられている模様。文字の刻まれている石板なんて、古代の遺物を置いて他にない。
 山羊のパペットに使われていたのはアスファルトで、きっと他のパペットのことをかんがみるに、このアスファルトでさえもタダモノではないのだろう。もう、想像すらもしたくない。
「なぁにが、『ただの石』なんですかねぇ」
 思わずれた本音に、子どもたちはそろってコテリと首をかしげた。
「さあ、早くアメシストを見せてよ」
「さあ、早くモルダバイトを見せてよ」
 引く様子のない二人……というか、おそらくはパペットたちに、一言。
「後悔は、しませんね?」
 二人は顔を見合わせると、声をそろえて言った。
「「何を後悔するって言うのさ?」」
 ……なるほど? 言い切ったな? と思った私は、恐らく底意地が悪いのだろう。
 先ずは、モルダバイトを一欠片ずつ、二人の手に乗せた。果たしてパペットたちが気付いたかは分からないけれど、仮面がれたのを確認してから、次にアメシストを乗せてあげた。
 一旦黄金パペットたちからの呪縛じゅばくを解かれた二人に、宝石華の加護かごを願いながら。