『あなたの旅は、見ていて面白いですし』
あんなにもらったモルダバイトが、もう残り少なくなって、確かに今回の旅は大変だったんだなと思った。
行手に見えるのは、一軒家にしては大きな建物。そこに宝石華の観測者がいると、噂を聞いた。あまりに宝石華たちの記録が多くなりすぎて、彼の家は小さな図書館のようになってしまったらしい。生計は併設された玉石屋で立てているとのことだから、そこを覗く分には大丈夫だろうと、高を括っていた。
甘かった。
「おや、珍しいお客さんですね」
子どもの作ったような泥団子から金剛石まで、ありとあらゆる核が、それこそ玉石混合に雑多に散らばる店の奥。カウンターに座る、姿だけは若そうな青年のとろけるような蜂蜜色の瞳が、上機嫌に細められた。
姿だけは若そうだけれど、私には解る。彼は私なんぞよりも格上で、下手をすると、
「考え事とは、余裕ですね? アメシストの娘」
「トパーズの君には、ご機嫌麗しゅう」
私は慌てて、頭を下げた。ほら、やっぱり私より格上だった!
「ああ、怒っているわけではないのですよ。あなたの旅は、見ていて面白いですし」
口から魂が出そう、とは、このことか。どうやら見られていたらしい。それも結構前から。
「むしろ、どうして見られていないと思っていたんですかね。宝石華の観測者として、僕は有名だったように思うのですが」
ぐうの音しか出ない。いや、言い訳だけならある。噂にしか聞いていなかったから、実在するとは思っていなかった、とか。
「それで、良縁を司るアメシストの宝石華としては、ここまで来て何か得るものでもありましたか」
「見てたのに、聞くん?」
拗ねた声が出た自覚があったけれど、トパーズの宝石華は、穏やかに笑った。
「あなたのお人好しな行動は見ていましたが、あなたの心中はわかりませんからね」
「お人好しちゃうで。縁繋ぎしてるだけや」
だってそれは、私にこの姿を残した最後の主人の願いだったから。
「宝石華として開花しそうなパペットに手助けしたり、不遇なパペットに救いの手を伸ばしたり、傍から見ても随分とお節介を焼いていたようですが?」
本当、どこまで見られていたんだろう。思わず、懐に入れていたモルダバイトの、残り少ない欠片を握りしめる。
「しゃーないやん。玉石パペットを見守って、んでもって善き宝石華の誕生を寿いでっていうのが、あの方からの最後のお願いやったんやから」
嘆息しつつ告げれば、相手はそっと目を伏せた。
「すみません、踏み込みすぎましたね」
「んー、まあ、気にせんと」
宝石華になって、何人もの主人を見送って、幾星霜。器が朽ち果てる頃に出会った最後の主人が、私の核が紫水晶から骸骨水晶に成長していることに気付いた。そして願ってくれたのだ。私が忘れ去られ、朽ち果てないようにと、最期の願いを。
最後の願いを定めた宝石華は、パペットの器から解脱して、好きな姿を得ることができる。殆どの宝石華が自分にとって思い入れの強いパペットの姿を保つ中、最後の主人の姿をもらった私はやはり、変わり者なのだろう。
「あ、でも、何か格安で仕入れさせてくれるんなら、それでチャラにしたるで」
「意外と強かですね。まあ良いでしょう、僕の欠片でも持って行きますか?」