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【星空】自分を甘やかして、ゆっくり寝る時間です #絡繰異聞 #小説
こんなに儚くて美しい光景は、元居た場所では見たことがありませんでしたので。機会があればついつい見に来てしまうのは、それだけ自分が此処を好きな証拠なんだと思うのです。
「もうっ、夜更かしは良くないんだけどな~?」
でも天音兄さんだって、私を探しに来た段階で、同じく夜更かし組の仲間入りですよ?
そう伝えたら、とっても渋い顔をされました。
「あのねえ、ボクたちにとって夜はゆっくり寝る時間なの、解るでしょ? だって、電池が勿体ないじゃん!」
確かに、それもそうですね。私たちは、絡繰子。機械の義躯を持つ者。光発電で食事を賄っている以上、太陽光の利用できる昼に動いて、夜は省エネモードで過ごすのが理に適っている。解っていは、いるのですが。
「せっかく、こんなに綺麗な星空ですのに」
それでも名残惜しくて呟いていたら、天音兄さんの更に向こう側で足音がしました。
「奏音、天音にぃまでいないと思ったら、やっぱり此処か。今夜は晴れているし、新月だし、空がよく見えるものな」
「璃音兄さんまで」
璃音兄さんは、天音兄さんの隣まで来ると、小さく欠伸をしました。こういう仕草が本当に人間らしいものだから、人間だと信じて疑ってなかったんですけどね。まさか機械の義躯だなんて、思いもしなかった。
「天音にぃも、心配しすぎだと思うぞ。奏音だって、流石に何回もエネルギー切れで動けなくなりはしないだろう。動けなくなる度にバッテリーを増やしたりしているのは天音にぃじゃないか」
「そうなんだけどさ~、それでも気になるものは気になるっていうかぁ」
ぶつぶつとぼやきながらも、どうやら諦めたようで、天音兄さんは天を仰ぎました。
「こうなったら、さっさと流れ星を探してお願いごと、唱えなくっちゃだね」
そう、これだけ星が見えるなら、流れ星だって、たまには見つかるのです。その正体がかつて宇宙に打ち上げられた人工衛星などの成れの果てだとか、そういう現実は棚に上げても、此処では星空が見られて、流れ星には願い事を言うものだと美しい言い伝えを天音兄さんが知っていて、元居た場所では星なんて見られなかった、その事実が私には大切で。
静かな駆動音がして、私と天音兄さんの肩を、璃音兄さんの翼が覆いました。璃音兄さんの翼は予備電池の役割も果たしているので、こうしてそのお裾分けをもらえれば、その分電池の消耗が抑えられるのです。
もしも流れ星が見つけられたら、その時は。
考えていたはずなのに、兄さんたちも来たという安心感からでしょうか、気が付いたら眠ってしまっていたようで……。
「だから夜更かしは良くないって言ったのに!」
天音兄さんがプンスカしながら、いざという時のアラームについて検討していたと、後から璃音兄さんに聞きました。
璃音兄さんに内緒で請け負っているお仕事のことを思えば確かに私の意識とは別に処理能力が欲しいなと納得をしたので、ちゃんと実装してもらったのは、蛇足でしょうか。
こんなに儚くて美しい光景は、元居た場所では見たことがありませんでしたので。機会があればついつい見に来てしまうのは、それだけ自分が此処を好きな証拠なんだと思うのです。
「もうっ、夜更かしは良くないんだけどな~?」
でも天音兄さんだって、私を探しに来た段階で、同じく夜更かし組の仲間入りですよ?
そう伝えたら、とっても渋い顔をされました。
「あのねえ、ボクたちにとって夜はゆっくり寝る時間なの、解るでしょ? だって、電池が勿体ないじゃん!」
確かに、それもそうですね。私たちは、絡繰子。機械の義躯を持つ者。光発電で食事を賄っている以上、太陽光の利用できる昼に動いて、夜は省エネモードで過ごすのが理に適っている。解っていは、いるのですが。
「せっかく、こんなに綺麗な星空ですのに」
それでも名残惜しくて呟いていたら、天音兄さんの更に向こう側で足音がしました。
「奏音、天音にぃまでいないと思ったら、やっぱり此処か。今夜は晴れているし、新月だし、空がよく見えるものな」
「璃音兄さんまで」
璃音兄さんは、天音兄さんの隣まで来ると、小さく欠伸をしました。こういう仕草が本当に人間らしいものだから、人間だと信じて疑ってなかったんですけどね。まさか機械の義躯だなんて、思いもしなかった。
「天音にぃも、心配しすぎだと思うぞ。奏音だって、流石に何回もエネルギー切れで動けなくなりはしないだろう。動けなくなる度にバッテリーを増やしたりしているのは天音にぃじゃないか」
「そうなんだけどさ~、それでも気になるものは気になるっていうかぁ」
ぶつぶつとぼやきながらも、どうやら諦めたようで、天音兄さんは天を仰ぎました。
「こうなったら、さっさと流れ星を探してお願いごと、唱えなくっちゃだね」
そう、これだけ星が見えるなら、流れ星だって、たまには見つかるのです。その正体がかつて宇宙に打ち上げられた人工衛星などの成れの果てだとか、そういう現実は棚に上げても、此処では星空が見られて、流れ星には願い事を言うものだと美しい言い伝えを天音兄さんが知っていて、元居た場所では星なんて見られなかった、その事実が私には大切で。
静かな駆動音がして、私と天音兄さんの肩を、璃音兄さんの翼が覆いました。璃音兄さんの翼は予備電池の役割も果たしているので、こうしてそのお裾分けをもらえれば、その分電池の消耗が抑えられるのです。
もしも流れ星が見つけられたら、その時は。
考えていたはずなのに、兄さんたちも来たという安心感からでしょうか、気が付いたら眠ってしまっていたようで……。
「だから夜更かしは良くないって言ったのに!」
天音兄さんがプンスカしながら、いざという時のアラームについて検討していたと、後から璃音兄さんに聞きました。
璃音兄さんに内緒で請け負っているお仕事のことを思えば確かに私の意識とは別に処理能力が欲しいなと納得をしたので、ちゃんと実装してもらったのは、蛇足でしょうか。
奏音は一体何を折る?
「……なんですよ。なので、久々に折ろうかな、と」
通話する奏音の言葉尻だけが聞こえてきて、同じ部屋、少し離れたソファでダラダラとしていた璃音と天音は顔を見合わせた。
「折る?」
璃音が首を傾げて復唱すると、天音がもっともらしく頷く。
「鼻っ柱のことだね」
数秒の沈黙。璃音のジト目。
「奏音が、か?」
この三人の中で普段最も引っ込み思案の性格をしているのが、奏音であるというのに。
「風薫にギャフンと言わせる的な意味で」
風薫は過去に散々奏音たちのことを嗅ぎ回り、結果奏音の不興を買った情報屋の少女である。とは言うものの、天音と同じく天然の煽り屋(と書いてトラブルメーカーと読む)属性の彼女は天音とは気の合う同士として仲良しであるし、彼女に最も振り回されている璃音がそれを許している以上、今更奏音が何か復讐めいたことをするとも思えない。二人は再び、首を傾げる。
「んー、じゃあ、矜持?」
「聖也のか」
さっきよりも璃音のツッコミが早いのは、すぐさま心当たりに辿り着いたからだろう。
聖也は、現在奏音の勤めている会社の先輩に当たる情報処理技術者(この物語舞台の世間で言う技術士)である。砕けた口調とは裏腹に、人間としては非常に優秀な技術士なのであるが、この場合は相手が悪かった。
奏音は見た目こそ儚げな美少女であるが、一皮剥いて現れるのは肉ではなく、機械の塊。天音によって機械化された彼女は、高度な思考プラグラムのデバッグ目的で作成されたこともあって、えげつないハッキング能力の持ち主なのである。しかも、なおタチの悪いことに、本人にその凄さの自覚がない。
結果として、息をする(呼吸を偽装する)よりも簡単に、それこそ無自覚脊髄反射でそこらのプログラムをハッキングして操る奏音のやらかしが聖也の矜持を、下手したら彼の心でさえも、バキボキに折っている可能性はとても高いのである。
「天音兄さんも璃音兄さんも、二人揃って首を傾げているなんて珍しいですね?」
どうやら通話を終えたらしく、奏音もソファに寄ってきたので、天音が傾げていた首を反対側に倒す。
「奏音が、折るって言ったの聞こえたから、何を折るんだろうねって」
「天音にぃが鼻っ柱だの矜持だの言うんだが、違うだろう? でも、自分には直ぐに思い付かなくてな」
璃音の説明に、奏音まで首を傾げた。
「他所様の鼻っ柱とか矜持とかを折るのが楽しいって言いそうなのは、私ではなくて、光希の方ですよねぇ?」
光希は生前の奏音にとって双子の弟ではあるが、廃棄された後の奏音が生きていると知って躊躇なく【処分】するよう指示した旧家の跡取りでもある。彼ならば、己の一族のためにライバルを蹴落とすことも厭わないに違いない。
「じゃあ、奏音は何を折るの?」
焦れた天音に、奏音は何でもないような口調で答えた。
「紙、ですね。折り紙」
#絡繰異聞 #小説
「……なんですよ。なので、久々に折ろうかな、と」
通話する奏音の言葉尻だけが聞こえてきて、同じ部屋、少し離れたソファでダラダラとしていた璃音と天音は顔を見合わせた。
「折る?」
璃音が首を傾げて復唱すると、天音がもっともらしく頷く。
「鼻っ柱のことだね」
数秒の沈黙。璃音のジト目。
「奏音が、か?」
この三人の中で普段最も引っ込み思案の性格をしているのが、奏音であるというのに。
「風薫にギャフンと言わせる的な意味で」
風薫は過去に散々奏音たちのことを嗅ぎ回り、結果奏音の不興を買った情報屋の少女である。とは言うものの、天音と同じく天然の煽り屋(と書いてトラブルメーカーと読む)属性の彼女は天音とは気の合う同士として仲良しであるし、彼女に最も振り回されている璃音がそれを許している以上、今更奏音が何か復讐めいたことをするとも思えない。二人は再び、首を傾げる。
「んー、じゃあ、矜持?」
「聖也のか」
さっきよりも璃音のツッコミが早いのは、すぐさま心当たりに辿り着いたからだろう。
聖也は、現在奏音の勤めている会社の先輩に当たる情報処理技術者(この物語舞台の世間で言う技術士)である。砕けた口調とは裏腹に、人間としては非常に優秀な技術士なのであるが、この場合は相手が悪かった。
奏音は見た目こそ儚げな美少女であるが、一皮剥いて現れるのは肉ではなく、機械の塊。天音によって機械化された彼女は、高度な思考プラグラムのデバッグ目的で作成されたこともあって、えげつないハッキング能力の持ち主なのである。しかも、なおタチの悪いことに、本人にその凄さの自覚がない。
結果として、息をする(呼吸を偽装する)よりも簡単に、それこそ無自覚脊髄反射でそこらのプログラムをハッキングして操る奏音のやらかしが聖也の矜持を、下手したら彼の心でさえも、バキボキに折っている可能性はとても高いのである。
「天音兄さんも璃音兄さんも、二人揃って首を傾げているなんて珍しいですね?」
どうやら通話を終えたらしく、奏音もソファに寄ってきたので、天音が傾げていた首を反対側に倒す。
「奏音が、折るって言ったの聞こえたから、何を折るんだろうねって」
「天音にぃが鼻っ柱だの矜持だの言うんだが、違うだろう? でも、自分には直ぐに思い付かなくてな」
璃音の説明に、奏音まで首を傾げた。
「他所様の鼻っ柱とか矜持とかを折るのが楽しいって言いそうなのは、私ではなくて、光希の方ですよねぇ?」
光希は生前の奏音にとって双子の弟ではあるが、廃棄された後の奏音が生きていると知って躊躇なく【処分】するよう指示した旧家の跡取りでもある。彼ならば、己の一族のためにライバルを蹴落とすことも厭わないに違いない。
「じゃあ、奏音は何を折るの?」
焦れた天音に、奏音は何でもないような口調で答えた。
「紙、ですね。折り紙」
#絡繰異聞 #小説