No.233 (ランダム表示)
奏音は一体何を折る?
「……なんですよ。なので、久々に折ろうかな、と」
通話する奏音の言葉尻だけが聞こえてきて、同じ部屋、少し離れたソファでダラダラとしていた璃音と天音は顔を見合わせた。
「折る?」
璃音が首を傾げて復唱すると、天音がもっともらしく頷く。
「鼻っ柱のことだね」
数秒の沈黙。璃音のジト目。
「奏音が、か?」
この三人の中で普段最も引っ込み思案の性格をしているのが、奏音であるというのに。
「風薫にギャフンと言わせる的な意味で」
風薫は過去に散々奏音たちのことを嗅ぎ回り、結果奏音の不興を買った情報屋の少女である。とは言うものの、天音と同じく天然の煽り屋(と書いてトラブルメーカーと読む)属性の彼女は天音とは気の合う同士として仲良しであるし、彼女に最も振り回されている璃音がそれを許している以上、今更奏音が何か復讐めいたことをするとも思えない。二人は再び、首を傾げる。
「んー、じゃあ、矜持?」
「聖也のか」
さっきよりも璃音のツッコミが早いのは、すぐさま心当たりに辿り着いたからだろう。
聖也は、現在奏音の勤めている会社の先輩に当たる情報処理技術者(この物語舞台の世間で言う技術士)である。砕けた口調とは裏腹に、人間としては非常に優秀な技術士なのであるが、この場合は相手が悪かった。
奏音は見た目こそ儚げな美少女であるが、一皮剥いて現れるのは肉ではなく、機械の塊。天音によって機械化された彼女は、高度な思考プラグラムのデバッグ目的で作成されたこともあって、えげつないハッキング能力の持ち主なのである。しかも、なおタチの悪いことに、本人にその凄さの自覚がない。
結果として、息をする(呼吸を偽装する)よりも簡単に、それこそ無自覚脊髄反射でそこらのプログラムをハッキングして操る奏音のやらかしが聖也の矜持を、下手したら彼の心でさえも、バキボキに折っている可能性はとても高いのである。
「天音兄さんも璃音兄さんも、二人揃って首を傾げているなんて珍しいですね?」
どうやら通話を終えたらしく、奏音もソファに寄ってきたので、天音が傾げていた首を反対側に倒す。
「奏音が、折るって言ったの聞こえたから、何を折るんだろうねって」
「天音にぃが鼻っ柱だの矜持だの言うんだが、違うだろう? でも、自分には直ぐに思い付かなくてな」
璃音の説明に、奏音まで首を傾げた。
「他所様の鼻っ柱とか矜持とかを折るのが楽しいって言いそうなのは、私ではなくて、光希の方ですよねぇ?」
光希は生前の奏音にとって双子の弟ではあるが、廃棄された後の奏音が生きていると知って躊躇なく【処分】するよう指示した旧家の跡取りでもある。彼ならば、己の一族のためにライバルを蹴落とすことも厭わないに違いない。
「じゃあ、奏音は何を折るの?」
焦れた天音に、奏音は何でもないような口調で答えた。
「紙、ですね。折り紙」
#絡繰異聞 #小説
「……なんですよ。なので、久々に折ろうかな、と」
通話する奏音の言葉尻だけが聞こえてきて、同じ部屋、少し離れたソファでダラダラとしていた璃音と天音は顔を見合わせた。
「折る?」
璃音が首を傾げて復唱すると、天音がもっともらしく頷く。
「鼻っ柱のことだね」
数秒の沈黙。璃音のジト目。
「奏音が、か?」
この三人の中で普段最も引っ込み思案の性格をしているのが、奏音であるというのに。
「風薫にギャフンと言わせる的な意味で」
風薫は過去に散々奏音たちのことを嗅ぎ回り、結果奏音の不興を買った情報屋の少女である。とは言うものの、天音と同じく天然の煽り屋(と書いてトラブルメーカーと読む)属性の彼女は天音とは気の合う同士として仲良しであるし、彼女に最も振り回されている璃音がそれを許している以上、今更奏音が何か復讐めいたことをするとも思えない。二人は再び、首を傾げる。
「んー、じゃあ、矜持?」
「聖也のか」
さっきよりも璃音のツッコミが早いのは、すぐさま心当たりに辿り着いたからだろう。
聖也は、現在奏音の勤めている会社の先輩に当たる情報処理技術者(この物語舞台の世間で言う技術士)である。砕けた口調とは裏腹に、人間としては非常に優秀な技術士なのであるが、この場合は相手が悪かった。
奏音は見た目こそ儚げな美少女であるが、一皮剥いて現れるのは肉ではなく、機械の塊。天音によって機械化された彼女は、高度な思考プラグラムのデバッグ目的で作成されたこともあって、えげつないハッキング能力の持ち主なのである。しかも、なおタチの悪いことに、本人にその凄さの自覚がない。
結果として、息をする(呼吸を偽装する)よりも簡単に、それこそ無自覚脊髄反射でそこらのプログラムをハッキングして操る奏音のやらかしが聖也の矜持を、下手したら彼の心でさえも、バキボキに折っている可能性はとても高いのである。
「天音兄さんも璃音兄さんも、二人揃って首を傾げているなんて珍しいですね?」
どうやら通話を終えたらしく、奏音もソファに寄ってきたので、天音が傾げていた首を反対側に倒す。
「奏音が、折るって言ったの聞こえたから、何を折るんだろうねって」
「天音にぃが鼻っ柱だの矜持だの言うんだが、違うだろう? でも、自分には直ぐに思い付かなくてな」
璃音の説明に、奏音まで首を傾げた。
「他所様の鼻っ柱とか矜持とかを折るのが楽しいって言いそうなのは、私ではなくて、光希の方ですよねぇ?」
光希は生前の奏音にとって双子の弟ではあるが、廃棄された後の奏音が生きていると知って躊躇なく【処分】するよう指示した旧家の跡取りでもある。彼ならば、己の一族のためにライバルを蹴落とすことも厭わないに違いない。
「じゃあ、奏音は何を折るの?」
焦れた天音に、奏音は何でもないような口調で答えた。
「紙、ですね。折り紙」
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